パリタクシー ★★★★☆
あらすじ
パリのタクシー運転手のシャルルは、人生最大の危機を迎えていた。
金なし、休みなし、免停寸前、このままでは最愛の家族にも合わせる顔がない。
そんな彼のもとに偶然、あるマダムをパリの反対側まで送るという依頼が舞い込む。
92歳のマダムの名はマドレーヌ。終活に向かう彼女はシャルルにお願いをする、
「ねぇ、寄り道してくれない?」。
人生を過ごしたパリの街には秘密がいっぱい。
寄り道をするたび、並外れたマドレーヌの過去が明かされていく。
そして単純だったはずのドライブは、いつしか2人の人生を大きく動かす驚愕の旅へと変貌していく!
感想(ネタバレあり)
いやぁ、もう清々しいくらい先の読める映画でした(笑)
でも、観る人が求める展開が分かっているというか、寄り添ってくれる映画でした。
映画の最初はふてぶてしくて無口のシャルルが、乗客のマドレーヌに心を開いていく描写が、観ていて楽しかったです。
最後の方は、「いやいや心開きすぎ!ちょっと危険やで!心配になるわ!」と、こちらが引いてしまうくらいでした(笑)
この映画は、マドレーヌが高齢者施設に入居するために、自宅からタクシーで長距離移動する物語なのですが、マドレーヌがシャルルに「おねがい」と言って度々寄り道を依頼します。
マドレーヌの最初の印象は、裕福で穏やかで幸せに生きてきたおばあちゃんという感じでしたが、その寄り道の度に過去の話が明かされていくにつれて、幸せだけではない人生だったことがわかります。
父がナチスに殺され、それから程なくアメリカ軍人と恋に落ちたが、3ヶ月程で恋人はアメリカへ帰国。
その後に妊娠が判明し、私生児として一人で子供を育てていきます。
それから出会ったレイという男性と結婚したものの、度重なる暴力に耐えなければならない日々。
そんな中、ついに子供にまで手を上げられ、それにより我を忘れた彼女は恐ろしい事件を起こします。
それは、夫の生殖器に火をつけるという暴挙でした。
このシーンは怖かった・・映像では、マドレーヌがガスボンベを持ち、睡眠薬で眠らせた夫に近づいていく描写のみだったので、焼死させたのかな?と思ったのですが、その後の裁判シーンで、「陰部を焼いた」という趣旨の発言があり、驚嘆しました。
タクシーの中で、マドレーヌは、「愛していたら殺していた。愛していなかったから殺さなかった。」と発言しています。深すぎる・・・そして、怖すぎる・・・(笑)
物語の最初の方、マドレーヌは父の言葉として、「怒れば1つ年を取り、笑えば1つ若返る」という言葉をシャルルに伝えています。
最初はこの言葉が全く響いていない様子だったシャルルですが、マドレーヌの物語を聞くにつれて、穏やかになり、笑顔が増えていきます。
マドレーヌが「緊急事態、生理現象よ」と言ってトイレ休憩を依頼するシーンでは、トイレを借りた店の前で路駐したため大渋滞が発生し、後車のドライバーたちから怒号を浴びせられますが、2人はそんなのお構いなし。
優雅に歩いて車に乗り、最後にシャルルは挑発ポーズをかまして発進します。
個人的に、このシーン大好き!人と人との心の距離というのは、共同作業によって縮まると常々考えているのですが、この共同作業が「ちょっとしたワル」の行為の時って、格段に心の距離が縮まる感じがしませんか?(笑)
「悪友」とはよく言ったものですね。この後2人で橋の上でタバコを吸うシーンも、すごくカッコいいです。
「あの建物、何かわかる?」とマドレーヌが指した場所。それは裁判所でした。
夫の生殖器を燃やしたマドレーヌは、逮捕され、裁判にかけられます。
「日常的な暴力に耐えかねて、自分と息子を守るための行動だった」というマドレーヌの主張は、男性主義的な時代背景と、レイの「日常的な暴力は振るっていない」という嘘の主張によって黙殺され、殺人未遂の罪として、懲役25年の判決を受けます。
懲役25年は長すぎるだろ!と感じました。これも時代背景なのでしょうか。シャルルもこれには憤慨し、「そんな時代だったのならもう1950年代のことは絶対に好きになれそうにない」と発言しています。マジで激しく同意。
そんなシャルルに対し、マドレーヌは「50年代は悪いことばかりじゃなかったのよ、うふふ」というようになだめます。ほんとうに、観れば見るほど、マドレーヌのこういうところ大好きすぎる・・・。もっと恨み節があってもいいのに、とさえ思います。
少しずつ時代が変わってきたこと・マドレーヌが模範囚であったことから、彼女は13年で刑期を終え出所します。
出所前、7歳だった最愛の息子は、20歳になっていました。彼は大学を中退し、カメラマンになっていました。
マドレーヌの出所から数日後には、戦争写真を撮りにベトナムへ渡り、半年後に亡くなってしまいます。
自分の人生を賭けて守りたかった最愛の息子の死は、マドレーヌにとって本当につらい出来事だっただろうと思います。もしもマドレーヌがあんな暴挙にでなければ、もしかしたら息子は違う道に進んで、生きていたかもしれないという後悔もあったんじゃないでしょうか。考えれば考えるほど、つらいことです。
マドレーヌの昔話に夢中になったシャルルは、信号無視をしてしまい、警官に切符を切られそうになります。切られたら、免停。これはマズイ・・・となったところで、マドレーヌの年の功が発動(笑)
女性警官に、
「あの子は私の孫で、私は重い心臓病をかかえていて、これから病院に行くの。あの子は私が育てたも同然で、とてもじゃないけど冷静な状態で運転なんてできるわけがないのよ。今回だけは見過ごしてくれない?」
とハッタリをかまし、シャルルは危機を脱します。
日が沈み、19時ごろ。
15時には施設に到着予定だったマドレーヌを心配し、施設職員から電話がかかってきても、2人の寄り道は止まりません。シャルルは免停の危機を脱したお返しに、マドレーヌをディナーに誘います。
「これからごちそうを食べに行かない?」
外国人のこういう言い回し、いいですよね。「ごちそうを食べに行かない?」って。洒落てるわぁ。
マドレーヌは大喜びで、2人はごちそうを食べたのち、ついに施設に到着。
この時、シャルルはタクシー代をもらいませんでした。
「また必ず来るから。そのときもらいます。」
帰宅し、妻にマドレーヌのことを話したシャルルは、後日、妻とともにマドレーヌに会いに行きます。
しかし、入居直後、マドレーヌは持病の心臓病が悪化し、この世を去っていました。
絶句するシャルルは、家族で墓参りに訪れ、そこでマドレーヌの代理人から手紙を渡されます。
「あなたがこの手紙を受け取っているということは、もう私はこの世にいないのでしょう。住んでいた家を売ったら、ちょっとしたお金になったの。あの世の私にはもう必要ないもの。でも、あなたには必要よ。」
手紙には、110万ドルの小切手が入っていました。
シャルルは家族の肩を抱き寄せ、涙しました。ここで物語は終わり。
タクシー代をもらわなかったときに、もう絶対遺産とかくれるやつやん、これは。と思いました(笑)
フランスにも相続税ってあるのかな?とかちょっと気になる・・・。
どんな国や人種でも、見返りを求めない行動が人の心の琴線に触れ、心を動かすことができるのは変わらないんですね。でもそれって、本当に難しいこと。初対面の人には特にそうですよね。
当たり前だけど、自分がされてうれしいことを、私も人にしていこう。そう思える映画でした。
マドレーヌみたいなおばあちゃんになりたいな(*^-^*)
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